切削加工.net

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各素材の持つ機能

まずは、加工した製品にどのような機能が欲しいか?というところから見て行きます。
金属材料を母材によって大きく5つ(下記表)にわけ、さらに鉄が母材のもので、特にニッケル・クロムが多く含まれるステンレスを分けて6種類で考えてみます。

鉄 Fe
比重:約7.8
SS400,S45C,SUS,SCM,SK,SUM,R材等

アルミニウム Al
比重:約2.7
A2011,A2024,A5056,A7075等

銅 Cu
比重:約8.9
C3604(真鍮),C1011,C1020等

チタン Ti
比重:約4.5
Ti6Al4V,TB340等

ニッケル Ni
比重:約8.9
インコネル、ハステロイ、純ニッケル等

これらの金属は単体で使われることはほとんど無く、硬さを上げるため、 腐食を防ぐため、熱に強くするため、等の理由で、様々な元素を添加して 合金で使用されます。 ステンレスも鉄の合金ですが、鉄、ステンレスと分けて呼ぶことが多いので、本サイトでも区別して呼びます。

①強さが欲しい・・・鉄(S45C、SCM、SKD等)+焼き入れ・焼き戻し
②軽さが欲しい・・・アルミ合金
③電気抵抗を減らしたい・・・銅合金
④耐食性が欲しい・・・ステンレス
⑤耐熱性が欲しい・・・ニッケル合金
⑥熱伝導が高いものが欲しい・・・アルミ合金・銅
だいたいこのようなところから選んでいきます。
また、組合せによって、
①+②=チタン合金
等、それぞれの良いところをあわせて考える事が重要です。

各素材の価格

製品が大きいものは素材の価格が重要になってきます。
自動車部品はコストを抑えるため、ほとんど鉄系の合金からできています。
逆に航空機は軽さを求めるために、アルミ合金が主体になります。
素材の価格は変動が大きく、特に特殊鋼に使われるレアメタルは価格がすぐに倍になったりすることが珍しくありません。

上記の金属でざっと高価な順に見ていくと、
①チタン合金・ニッケル合金
②銅合金・アルミ合金・ステンレス
③鋼
大きく3つのグループに分けましたが、実際には、その合金の添加されるレアメタルの種類と量で大きく価格は異なります。 ただ、鉄の成分の多い金属は安いので、とにかく安く作りたい場合は、鉄系のよく流通している合金を選ぶと良いでしょう。
ただし、鉄は腐食が激しいため、塗装、メッキ等、何らかの後処理が必要になってきます。少量の試作品は後処理の費用を考えると錆びないステンレスを使ったほうが安く上がる場合があります。
チタン・ニッケル合金系は、よっぽどその機能が必要な時にだけ選ぶ事が無難です。

被削性

被削性とは、切削加工で削られやすいか?ということで、被削性が良いということは、削りやすい素材という事になります。
数が少ない試作品や、製品がとても小さいものに関しては、材料価格よりも加工工賃の割合の方が大きくなってきます。
そうなると、金属そのものの価格よりも、加工が楽かどうか?というのがコストを抑えるポイントになります。

それでは、前述の合金を削りやすい順に並べていきましょう。
①アルミ合金(特にA2011,A5056)
②銅合金(特に、真鍮(C3604等))
③鉄合金
④ステンレス
⑤チタン合金
⑥ニッケル合金
もちろんこれらの中には、成分によって、とても削りにくいものもあります。
機能はどうでもいい試作品を作る場合は、A50系が用いられる事が多いです。
耐食性も良いので、重宝されます。
真鍮は被削性がとても良いので、小物の高精度な量産部品に使われることが多いですが、腐食しやすい事で、メッキをかける必要が出てきます。

また、強度が必要な鉄は熱処理(焼き入れ・焼き戻し)をしてから使用されるため、精度が必要な部品では、切削→熱処理→研磨という工程が必要になってきます。
これもコストを上昇されるポイントになります。
チタン合金、ニッケル合金も加工することは可能ですが、刃物にかかる金額が通常の金属の10倍くらいかかってしまったり、人が工作機械に付きっきりになる必要が出てきたりと、他の材質に比べると加工が大変な材質ではあります。

合金とは

ほとんどの金属材料が多くの金属を混ぜ合わせ、合金として使用されています。
合金のメリットは、使用用途に応じて、金属に様々な特性を持たせることができることです。
特性とは具体的にどのようなものがあるのでしょうか?
代表的なものは以下になります。

引張り強さ:引っ張ってどれだけ伸びるか
硬さ   :硬いものを押し付けたときどれだけ凹むか
靭性   :どれだけ破壊されずに伸びるか
耐食性  :さびに強いか
耐熱性  :熱に強いか
耐摩耗性 :摩擦に強いか
被削性  :削りやすいか(快削性)

鉄合金

付加される元素 特性
C(炭素) 硬さ S45C(0.45%C)
Si(シリコン)、Mn(マンガン) 引張り強さ、靭性 (SM)
P(リン)、S(硫黄) 削性 SUM材
Cr(クロム) 食性、焼入れ性 SCM
Mo(モリブデン) 温強度
Ni(ニッケル) 耐熱性 SUS

鉄の合金は母材が安価なため、ほとんどの工業製品に使われています。
鉄ならば何でもいい。という場合には、SS400が使われる事が多いです。
しかし、多少コストは上がりますが、快削性を考えるとSUM材を使った方が加工時間が早くなります。
SUMの中でも、SUM22,SUM23はほとんど流通していないので、SUM24Lを使うと良いでしょう。また、溶接が必要な場合は、SUM32Lなら可能です。 鉄の中でも特に金型のように硬度が必要になる場合は、SK、SKD、等、鉄の合金は最も多く、様々な用途で活躍しています。

アルミ

次に、アルミの一般的な合金について述べます。
アルミ(Al)も鉄と同様にCu,Mg,Cr,Mn,Pb等を入れて様々な特性を出しています。

JIS特性 一般的な呼称 説明
A1100 純アルミ 加工性に優れるが強度が低いので構造材には不向き。
A2011 快削ジェラルミン A2017にPb、Biを添加して、快削性を上げている。
A2017 ジェラルミン AlにCu、Mgを添加して、強度を上げている。Cuが多いので耐食性は劣る。
A2024 超ジェラルミン A2017にCr、Mnを添加して、応用腐食割れを防いでいる。
A5052 Al-Mg系合金 Mgを添加しており、強度は中程度。構造材に広く用いられる。主に板材。
A5056 Al-Mg系合金 A5052とほぼ同等の成分でやや硬い。主に棒材。
A6061 Al-Mg-Si系合金 強度、耐食性ともに良好。溶接はNG。SS400相当の強度。
A6063 Al-Mg-Si系合金 押し出し性が良いため、建築用のサッシを中心に用いられる。6061よりは強度が低い。
A7075 超々ジェラルミン アルミ合金の中で最も硬い。耐食性は劣る。

さて、この中でも特に快削性に優れ、強度も高いものとして、A2011があります。価格もA5056より多少高いくらいで、お勧めの素材です。 A2017も良いのですが、A2011に比べて面粗度が多少出しにくいです。より耐食性がほしいならば、A5056が良いです。A5052はA5056よりねばく、多少加工しにくいです。 棒材を取ってみると、流通量も少なく、サイズのラインナップも少ないことから、無駄に太い材料から削り出すことにもつながります。 A6063は特に押し出し材として使われることが多いので、丸棒・板から削り出す場合は、A6061を使うほうが入手性も良いです。

銅合金

よく使われる銅合金を表にしました。 この中で、Pbが含まれる可能性があるものは、 C3000系とC5000系です。 Cの後の最初の1文字目が合金の種類、次の2文字が規格でつけた番号、 最後の1文字がその派生合金になります。

JIS特性 一般的な呼称 説明
C1011、C1020 無酸素銅 酸素はほとんど含まない高純度の銅。タフピッチ銅よりも酸素が少ない。
C1100 タフピッチ銅 地金に含まれる酸素を還元し、0.02~0.04%まで減らしたもの。導電率、熱伝導率が高い。
C1720 ペリリウム銅 導電率が高く、バネ性も良いので、高級なバネ材料として利用される事が多い。
C3602 快削黄銅(真鍮) 快削性が良い。3604よりも展延性が良い。(その分削りにくい)
C3604 快削黄銅(真鍮) 快削性が良い。様々な分野で広く利用されている。
C4641 ネーバル黄銅 黄銅にSnを1%ほど添加して耐食性を上げたもの。海水にも強い。
C5191 りん青銅 銅にSn(錫)とP(りん)を加えた合金。耐疲労性、バネ性、耐摩擦性、耐食性が良い。コネクタに多く使われる。
C5341、C5441 快削りん青銅1種、2種 りん青銅に快削成分を添加したもの。

銅合金の中でも特に多いのは真鍮(C3604)です。とにかく快削性が良く、削り出しの量産品は真鍮にメッキをかけて使っていることが多いです。 また、ベリリウム銅、リン青銅等は、バネ性が高いのでコネクタに使われることが多いです。ただ、価格も非常に高価(特にベリリウム銅)です。 真鍮以外の銅合金は特に電気特性・バネ特性で選ばれる事が多いです。

ステンレス合金

ステンレス合金は、大きく4種類(オーステナイト系・マルテンサイト系・フェライト系・析出硬化系)に分けられそれぞれ特性が大きく異なります。

JIS特性 一般的な呼称 説明
SUS303 オーステナイト系 SUS304に快削性元素のS(硫黄)とP(リン)を増量したもの。
SUS304 オーステナイト系 オーステナイト系ステンレスは、耐食性、耐熱性に優れ、食器などごく一般的に用いられる。304は最も使用量の多いステンレス。
SUS316 オーステナイト系 SUS304により耐食性をもたせるため、Mo(モリブデン)を添加したもの。
SUS316L オーステナイト系 SUS316のC(炭素)を減らして、粒界腐食を抑えたもの。LはLowCarbon。
SUS410 マルテンサイト系 マルテンサイト系ステンレスは、焼入れ、焼き戻しが可能。刃物などに一般的に用いられる。
SUS416 マルテンサイト系 SUS410にS(硫黄)を添加し、快削性を上げている。さらにMo(モリブデン)添加で耐食性を上げている。ボルトなどに用いられる。
SUS420 マルテンサイト系 SUS410よりもC(炭素)の含有量が多い。
SUS440C マルテンサイト系 ステンレスの中で最も固い。焼入れ焼き戻しでHRC58以上になる。C(炭素)の含有量が多いため、耐食性は他のステンレスより劣る。
SUS430 フェライト系 オーステナイト系に比べて安価で、マルテンサイト系よりも耐食性に優れる。絞りなどの成形加工性が良い。
SUS430F フェライト系 SUS430にP(リン)とS(硫黄)を増量し、快削性を増したもの。
SF20T フェライト系 低炭素フェライト系快削ステンレス。SUS430を改質して、20%のCr、Moの添加で304に近い耐食性を持たせたもの。
SUS630 析出硬化系 熱処理により高い硬度を出したステンレス。シャフト、タービン等に用いられる。

とにかく、何でもいいのでステンレス。という場合は、SUS303を使うのが無難です。通常の雰囲気内であれば腐食の心配もありません。 ただ、快削成分が含まれるので、溶接を行う必要がある場合は避けましょう。溶接が必要ならば304を使うと良いでしょう。切削の肌もきれいに仕上がります。 快削性を考えると、SUS430F系の快削材(ASK3200,SF20T等)も良いですが、磁石につきます(フェライト系)なので注意して下さい。逆にSUS420、SUS630はやりにくい素材になるので、一般的には加工費は高くつくと思ったほうが良いです。